『王になろうとした男』 (野崎六助先生)

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ジョン・ヒューストン自伝 『王になろうとした男』 清流出版

映画監督の自伝には、しばしばその映画作品を超えた面白さがある。

オーソン・ウェルズ自伝は偽自伝と銘打っているとおりフェイクばかり並んでいるし、ルイス・ブニュエル自伝は意表をついて品行方正すぎるところが滑稽だ。

ジョン・ヒューストンは大監督の一人とはいっても、そのテーマ性や映像技法などに一貫性があるわけではない。B級よりは上等の犯罪映画の作り手というイメージがいちばん落ち着くが、他に雑多な傾向の作品がありすぎる。 『白鯨』 のような文芸路線は大コケだし、『黒船』 などといった日本人としては耐えがたい国辱映画まである。

この本はしかし、ヒューストンという人物の傑出性がすべてポシティヴに表われた素晴らしい本だ。映画が映画であった時代に生きた豪傑たちの破天荒な物語。ページごとに凝縮されたエピソードがぎっしりと詰まっている。映画監督とは出演者の最良の一面をスクリーンに焼きつける技術者、エキスパートなのだ――という本質がよくわかる。これはヒューストンの、フィルムには撮られなかったベスト・ムーヴィー、活字で書かれたアンテイク作品なのだ。

表現者が己れの才能を必ずしも望んだかたちでは開花させえないというのは一般的な真実だが、それは映画ジャンルにおいていっそう際立っている。映画史の多くのページは高貴な才能の数かずが溝泥に捨てられていく屈辱の記録によって占められる。わたしが映画に関する書物に惹かれるのもそのせいかもしれない。自伝においてヒューストンは 「絶対の王」 として君臨している。そして隅から隅までヒューストン映画の最良の息遣いが言葉をとおして発されてくる。

参考 http://www.nhk.or.jp/book/review/review/2006_b_main3.html

ジョン・ヒューストン
『白鯨』
『黒船』 (allcinema ONLINE)
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by waseda-bungei | 2006-05-26 14:36 |